「フルハンドメイド」「ブリティッシュモデル」は英国サヴィル・ロウの伝統的でスタンダードな風格ある雰囲気を現代のフィルターを通じてモデファイされた価値あるデザインです。 肩にはしっかりしたパットが入り、よりボリューム感を出した胸回りが特徴のモデル。 構築的で時代に左右されない普遍的な顔つきですが、着心地はたいへんソフトで機能的です。 |
どんなにマシン縫いが発展しようとも人間による運針の力の強さの塩梅(あんばい)にはかないません。
ハンドによる糸にかける力の甘さはマシンには到底出来ないものなのです。この運針による力の甘さが服を着続けることで、より人間の身体にゆっくりと徐々になじんでくるのです。 納得のいく最上級の服。他の誰にも着られない自分だけの大事な服。「いいね」「素敵ですね」と誰からもほめられる佳い服。大量生産では到底作れない味わいのある品格のある服。 最高に着心地のいい服はこうして出来上がってくるのです。時間をかけてじっくりと仕立てる。 これこそが究極の贅沢な着心地感につながるのです。 これまでの説明を読んできて、すべてのことが「それがなんなの、どってことないでしょ」と言ったら、なんにもなりません。極論(きょくろん)ですがこだわりって、見方によっては「何もそんなに考えなくても」。と滑稽に見られがち。しかし一着にかけるスーツは「ハンドメイド」により、その品物に対してその人の思いが伝わります。「たかがスーツ、されどスーツ」こだわりって「感覚的」なものだと思います。 私がこだわって縫ったスーツを仕立てる事により、そのお客様が喜んで、着ていただける。その事により、私のアイデンティティ(存在感)を感じ、嬉しく思う。スーツという媒体を通して、お客様と私との心のキャッチボール。その事をこれからも、大事にして、スーツを縫っていきたいのです。 |
元結(もとゆい)という髪結いに使う紙縒り(こより)である日本古来の紐の糸を超極細のシルクの糸でゆっくりと巻きつけ一針、一針丁寧に綺麗にかがります。マシンメイドでは絶対にでない、ボタンホールの糸の纏り(まつり)が細かくてボタンホールが立体的に盛り上るのが特徴です。これは永い間経験しなければできない職人の技(わざ)なのです。 |
ハンドメイドのボタンホールは、頻繁に掛けはずしに丈夫に対応し、この立体感はハンドでなければでません。ボタンホールは洋服の人間で言えば「目」にあたり、手かがりをする事により上着が随分と感じ方が変わります。ご覧の通り味も変わり、雰囲気もハンドメイドらしくなります。昔、洋服のうまく縫う職人か不器用な職人なのか、わかる判断方法はその職人に「ボタンホールをかがらせろ」。といわれておりました。手先の器用な人でなければ何年たっても綺麗なボタンホールはかがれません。30年以上前になるでしょうか、私の洋服の修行時代は、仕事が終わった深夜、寝る間を惜しんで一生懸命にボタンホールの練習をいたしました。現在どれほどのボタンホールを綺麗にかがれる佳い職人がいるでしょうか。イタリアの職人だってイギリスの職人だって全部がいい訳じゃなく、うまい人もいれば見られない下手な職人もいるものですよ。 |
洋服の上着は肩で着ると言います。日本人の肩は、欧米人に比べて前に出ております。 業界用語では「前肩」と呼びます。その前肩を手付け(ハンド)で行います。後ろ肩のいせ量も若干多くし丁寧に縫います。そのことで上着の中心である「うなじ」から肩先にかけて重さを軽減でき、肩先が当たりにくくなります。そのためバランスもよくなり着心地感が抜群にとっても良く変わります。 |
フルハンドメイドのバストのボリュームは構築的で迫力が違います。そしてハンドメイドの場合は端をすくい上げるように一針、一針ゆっくりと縫っていくので、胸ポケットが盛り上がりとても立体的な胸ポケットになります。「ハンドメイドは洋服の全体的に見た目が穏やかに丸く、とがらずに柔らかで立体的なシルエットにすることが重要な要素となるのです」。 |
AMFステッチの糸はポリエステル糸でステッチをマシンでかけます。マシンでかけるには糸を引っ張って進んでかけるのでちょっときつくかけざるを得ません。当然糸は余裕が無いために、出来上がったときは綺麗でも、クリーニングを頻繁にかけるとアイロンの熱のため糸がポリエステルの特異性として当然のように縮み上がり突っ張ります。夏の上着の場合、よく端が波のようにびりびりにつってしまうのがその理由(訳)なのです。 その点フルハンドメイドの星ぬきの糸は見てのとおり、シルク100%のため生地とのなじみが良くフルハンドメイドの運針の力により、ゆるく丁寧に糸を置いていくようにすくい上げるため、頻繁なクリーニングにおいても問題なくピリつかず、いつも上着の端が綺麗に整っているのがその為なのです。 長い年月がたっても、いつまでも着続けていても型崩れもぜんぜんしないでいつも綺麗なエッジになります。 |
クオリティーの高い服ほど、丸い服作りに徹底しています。その為に上着の裏の見返しを内側に追い込んでしつけ糸をかけてそこにハンドで押さえるように、ステッチをかけます。そうすることにより、上着を着たときに丸く身体に包まれて立体的になります。 |
ハンドメイドのスラックスは、はいた瞬間気が付きます。今までにないフィット感と心地のよさ。 それは穿いた人だけが感じる充実感。 |
ハンドメイドの大事な要素で欠かせないことは、巧みなアイロンワークによる生地のクセ取りです。 この時間をかけた経験を持った職人のハンドのクセ取りにより平らな生地も、人間の体に沿って内側へ丸く立体的になるのです。 |
生地、フロント毛芯にはそれぞれ伸縮特性があります。それぞれの伸縮性が品物よっては一定では無いのです。服作りには蒸気でおこなう「加湿」アイロンによる「加熱」そして「冷却」がありその繰り返しをしながら仕立てをおこなうのです。加湿で伸び、加熱で収縮します。さらに冷却で固定されます。この3つの処理がすんだ段階では伸縮途上の状態のため歪みが発生しまう原因となります。これを専門用語で言うと「バブリング」といいます。 その条件を解決するために、「エージング」つまり(寝かせ)が工程の間に必要となります。よりよいスーツの仕立ては生地をゆっくりと時間をかけて「寝かせ」ながら次の工程に向かい、一着を完成させることが重要不可決なのです。 |